=第53作=
狐独な願い
【公演日:2016年1月30日】
(脚本:柊琉姫)
▼CAST▼
神様(静彗)
よるひめ
幼よるひめ




妖狐
九尾の玉藻

参拝者

神様M
???
:柊 琉姫
:カミュ
:柊 琉姫

:n人
:ReZEL

:ReZEL
:ベネ・水代

:n人

:柊 琉姫
:柊 琉姫
※役名Mはモノローグ(舞台に上がらず声のみ)
【 序 幕 】
神様M:














参拝者:


神様:











よるひめ:






神様:




よるひめ:


神様:





よるひめ:



神様:








【団長の挨拶】

団長:


























【 第1幕 】
よるひめM:






神様:


よるひめ:

神様:

よるひめ:




神様:





よるひめ:

神様:






よるひめ:



神様:


よるひめM:







神様:



よるひめ:




神様:





よるひめ:

神様:





よるひめ:

よるひめM:



【 第2幕 】

兄:

神様:




よるひめ:

神様:

よるひめ:

神様:

よるひめ:


神様:

よるひめ:

神様:

よるひめ:


神様:



よるひめ:


神様:




よるひめ:

神様:





よるひめ:



神様:

よるひめ

神様







よるひめ:


神様:







よるひめ:

神様:




よるひめ:

神様:




よるひめ:

神様:


よるひめ:


神様:

【 第3幕 】
兄:

妹:



兄:



妹:





兄:


妹:







兄:

妹:

兄:


妹:


兄:


妹:




兄:


よるひめ:







妹:









よるひめ:


妹:






よるひめ:




【 第4幕 】
神様:


よるひめ:

神様:



よるひめ:

神様:



よるひめ:



神様:

よるひめ:



神様:


よるひめ:


神様:

よるひめ:




神様:





兄M














神様:





よるひめ:

神様:





よるひめ:






神様:




よるひめ:




神様:

よるひめ:








神様:



???


神様:

九尾の玉藻:

神様:

九尾の玉藻:






神様:



九尾の玉藻:




神様:


九尾の玉藻:




神様:

九尾の玉藻:





神様:

九尾の玉藻:

神様:


九尾の玉藻:


神様:

九尾の玉藻:

神様:

九尾の玉藻:









神様:



【 第5幕 】
神様:

妖狐:


神様:



妖狐:


神様:


妖狐:






神様:

妖狐:


神様:


妖狐:




神様:



妖狐:


神様:


妖狐:

神様:





妖狐:







神様:






妖狐:



神様:

妖狐:






神様:










神様



妖狐:




神様:







妖狐:



神様:



妖狐:



神様:



妖狐M




神様:








神様M:







【 第6幕 】
妹:









兄:

妹:


兄:



妹:



兄:




妹:



兄:


妹:

兄:


九尾の玉藻:


【 最終幕 】
妹:




神様:



妹:

神様:


妹:


神様:



妹:

神様:


妹:



よるひめ:



神様:




よるひめ:



神様:

よるひめ:

神様:


よるひめ:



神様:




よるひめ:


神様:



九尾の玉藻M:











神様:










神様M:











神様:






楽しき時間というのはほんに短きモノじゃ
ゆえに愛しきモノなのかもしれぬ
あれからわしはどのくらいの月日を・・・
・・・太陽と月を仰いだのじゃろう
過ぎ去りし時など、わしらにしてみれば泡沫のような時間じゃが
人間にとっては、とてもとても長い時間なのじゃろう
さて・・・
こちらの世界に足を踏み入れてしまったお客人よ
わしは少々暇を持て余しておってだな・・・
バカ娘が帰ってくるまでちょっと世間話でもせんか?
お客人たちの時間でいうなら100分くらいじゃろうが・・・
それを楽しみにしておるんじゃろう?
くっくっく・・・
そうさのぅ・・・少し昔の話じゃが・・・

おぉ〜神よ、わしの願いを叶えて下されぇぇ・・・
キェェェェェェェーッ!

最後の奇声はなんじゃ、騒々しい・・・
隣村のオハナさんと仲良くなりたいじゃと?
とはいえ、恋愛成就はわしの管轄外じゃからのぅ
俗にいう「恋活」ってやつかのぅ・・・
人と人との繋がりには何かとお金が必要じゃろう・・・
ふむ・・・
苗の発育速度を1.2倍に・・・
いや、わしへの供物が油揚げ1枚を考えると1.1か・・・
土壌改良のためにあの者の土地にワームを放すのもありか・・・

ぐはっ!

供物を持ってきてくれた人の願いを
なんてモノで叶えようとしているんだ!
それに何?
そのせこくて気持ち悪い恩恵は!!
多く実をつけるとか、病気に強くなるとか
そういったもので叶えなさいよ!

何するか、このバカ娘がっ!
いくらわしが神とはいえ、おぬしの研ぎ澄まされた一撃は
蚊に刺される程度の痛みを感じるんじゃぞ!
もっとわしを敬え、このバカ者が!

何が敬えだ!このエセ神が!
元々は野良狐のくせにぃぃぃ!

ぐぎぎぎぎぃぃぃっ
のら狐と言ったか、おおぅっ!
そこになおれ!
わしの狐火で消し炭にしてやる・・・


神様だと言い張るなら、ボクが尊敬できるような事をしなよ!
ま、そんな日が来るとは思ってないけどさ〜
さぁ〜て、ごはんの準備しなきゃ!

うぐぐ・・・
・・・みておれ、小娘
近いうちにおぬしのその鼻っ柱をへし折ってくれる・・・
・・・
・・・・・・ん?
この匂いはわしの好物第3位の餅巾着ではないか!
お〜い、30個は用意するんじゃろうな〜♪
わしは腹が減ったぁ〜



変なきつ・・・、いや、神様ですね
さて・・・
みなさん、こんばんは
劇団うたかた月夜 劇団長のルキです
本日の公演へようこそおいでくださいました!
今宵の物語は・・・
平成22年7月に公演した「狐の嫁入り」に登場した神様と
一緒に暮らしている女の子が登場します
それを踏まえて、ホームページでは
公演ログをご覧いただけるようになっておりましたが
読まれた方はおりますでしょうか?
その作品を見たことない、ログも読み忘れたという方でも大丈夫!
「油揚げに目がない狐の神様は何だかんだですごい存在である」
・・・これだけ知っていてもらえれば楽しめる話となっています
また、RO演劇の都合で、物語の登場人物の発言ログは
演じている「役者の名前」で表示されています
ギルドの役職欄に「役名」が表示されていますのでご確認下さい
劇は、登場人物の名前で作成して行えば最もわかりやすいのですが、
これでは誰が演じているのかわかりません
当劇団は、演じているメンバーの頑張っている姿も見てもらいたいので
このようなスタイルと取っております
さらに、演出効果として派手なスキルを使用いたしますので
エフェクトON(/effect)でお楽しみください
さて、神様の【静彗】と【よるひめ】はこの後どうなるのか
劇団うたかた月夜第53作 『狐独な願い』
ひき続きお楽しみください


ボクがこの神様と出会ったのは、まだ小さい頃・・・
孤児となったボクは、預けられた施設で過ごすことが嫌で
時々抜け出しては山の中で一日を過ごしてたっけ・・・
そんな時、あの狐が声をかけてきて、時々話し相手になってたんだ・・・
でも、ある日・・・

(回想)
『おぬしはいつも独りじゃのぅ・・・』
『そんなにあの場所が嫌いかえ?』

「・・・あそこにボクの居場所はないから」

『他の者も、みな孤児ではないか』

「おまえにはわからないよ、ボクの気持ちなんて・・・」
「ボクは独りで生きていくって決めたから!」
「まだ子供だから、あの場所から出られないけど」
「いつか、きっと・・・」

『・・・子供・・・か』
『おぬしはか弱き人間じゃが・・・』
『心に秘めた決意は他の何モノにも負けないようじゃ』
『じゃが、このままではおぬしは・・・』
『現世から引き離れてしまうことになるじゃろう・・・』

「・・・?」

『・・・なぁに、独り言じゃよ』
『わしも独りが長いものでな・・・』
『そろそろ暇を持て余す相手を探しておったところじゃ』
『どうじゃ?これからもたまに遊びに来てくれぬか?』
『菓子はないが・・・』
『油揚げならある!』

「油揚げって・・・ボクは狐じゃないんだから」
「でも、独りならボクと一緒だね」
「うん、遊びに行く!!」

『わしはいつもこの奥にある社におる』
『いつでも遊びにくるがよい』

施設に戻りたくないボクはそれからも遊びに行くようになった
その日々は独りでいる時よりも楽しくて
神様だと打ち明けられてからもそれは変わらなかった
毎日を神様と楽しく過ごした日々の中で
ボクは「生きる力」を貰ったのかもしれない・・・
・・・と見せかけて、まんまと化かされたのだ
神様と言っていたこの「狐」に・・・

『そんなに怒ることじゃなかろう』
『こうでもせんと、おぬしは死んでいたんじゃから』
『感謝されこそすれ、怒られることではないじゃろうて』

「何が感謝しろだ!」
「こんな・・・」

「・・・こんな狐と人間の中間みたいな姿にさせておいてっ!」

『ほうほう、可愛いのぅ・・・』
『それにおぬし・・・』
『出会った頃にこの世界は生きづらいとか言うておうたじゃろう』
『だから、わしの妖力をおぬしに与えただけじゃ』
『これから世知辛い世界を生きるための力じゃよ〜』

「そんな化け狐の妖力だと知っていたら、欲しいと思わんわっ!」

『さりとて・・・』
『おぬしの中にわしの力を宿したからには・・・』
『これからも生きて力を後世まで繋いでもらわねば困るのぅ』
『末代までお世話になるぞ、よるひめ・・・』
『くっくっく・・・』

「・・・・・・」

この日を境にボクは
言葉通りに「狐」に憑りつかれたのだ・・・
(回想終了)



どうかよろしくお願いいたします・・・

・・・ふむ
色々な者が祈りに来るんじゃが・・・
何故に「商売繁盛」や「五穀豊穣」ではない願いをしてくるのかのぅ
まぁ、叶えてやらんことはないが・・・

ただいま〜♪

・・・

た・だ・い・まっ!!

・・・・・・

「ただいま!」って言ってるだろうがっっ!!


ぐはっ!

無視は良くないっ♪

だからといって、暴力に訴えるのも良くないだろうが、このバカ娘!

さっき男の人とすれ違ったけど、お客さん?
なんか、やけに暗い顔してブツブツ言ってたけど・・・

あぁ・・・
参拝に来た人間のことかのぅ
だいぶ悩んでいるようじゃが、わしにはどうしようもできん

どうしようもない?
願いを叶えるのが唯一の仕事であるあんたが?

おぬしよ・・・
わしを誰だと思っておるんじゃ・・・
これでも神なんじゃよ?
仕事など山ほどあるわ!

・・・で、なぜ何もできないの?

話をそらしおった・・・
コホン
わしは神じゃが、万能ではない・・・
願をかけた人間の想いや言葉どおりに叶えたところで
本当の幸せにはならんのじゃ

・・・?
みんなの願いが叶うんでしょ?
なら、幸せな世界になるんじゃない?

・・・それはあくまでも願った人間のみが感じとれる一時的な感情にすぎん

・・・?

バカ娘にわかりやすく言うとじゃな・・・
美味しい物を食べたいと願い、それが叶ったとしても
お腹が空けば、また美味しい物を求めたくなるじゃろう?
さらに人はのぅ
欲望と嫉妬をあわせもつ生き物じゃ・・・
幸福になりたいと願う人がおれば・・・
その人を恨み、妬む人がおる

それでも、願ったことが叶うなら
その人にとってはやっぱり幸せな事なんだよ

楽観的な奴じゃ・・・
それほどあの人間の願いとやらを叶えて欲しいのかえ?
まぁ、叶えるためには対価となる事象もついてくるがのぅ・・・
おぬしみたいに、未来永劫わしの世話を焼くとか・・・
それはともかく・・・
何故どうしようもないかはおぬしの目で確かめてくるがよい
あの人間は、3つ山を越えた集落に住んでおるようじゃ

・・・

じゃがの・・・
今から行くとわしの夕餉に間に合わんからな
明日の早朝に出るといい
おぬし程度の妖力でも、日が高くなる頃には着くじゃろう

あんたはどうするの?

・・・ん、わしか?
わしは他にやることがあってのぅ
おぬしがその村の名物である油揚げを手土産に戻ってくるのを
気長に待っておるよ

誰が買ってくるかっつぅの!

さて、めしにしようかのぅ〜
今日の夕餉はもちろん油揚げのくわ焼きじゃろうなぁ〜

・・・ん?
今日はスゴイダイズ!

・・・原材料・・・かよ


・・・ふぅ

あっ、兄さん、おかえりなさい

今日の会合はどうでしたか?

あ・・・、あぁ〜
農畜産物をどのように流通させれば良いか・・・とか
いつもどおり、退屈な話だったよ

そうですか
・・・変化がないということもまた良き事なのかもしれませんね
あ、そうだわ、聞いてください兄さん!
昨日採れた作物を山向こうの宿場に持っていったら
しばらく買い付けたいっていう宿屋さんがあったのですよ!

すごいじゃないか!
そんな話をつけてくるなんて・・・

私だってやる時はやるのです!
それに兄さんが丹精込めて作った作物ですもの・・・
私、知っているんですよ
兄さんが夜中なのに畑を耕したり、お世話したり・・・
手伝うといっても気を遣われてしまうから黙ってました♪
私も兄さんの頑張りに負けないように努力しないと!
いずれは大きな街にも行商に・・・

・・・そ、そのことなんだがな

はいっ?

あ、いや・・・
・・・宿の主人にはあとで挨拶に行かないとだな

はいっ♪
これからもしっかり兄さんを支えていきますから!

あぁ、俺もお前みたいな妹がいて安心だよ
俺がいなくても、お前一人でやっていけるんじゃないか?

うふふ、バカなことを言わないで下さいな
・・・あっ
そういえば、油揚げを買ってくるの忘れていました
ちょっと出かけてきますね

大丈夫だ、お前はしっかりしているから・・・
・・・・・・い

妖の姿になっていると便利なのよね〜
足が速くなったり、遠くの声が聴きとれるようになったり
さてと、あのお兄さんが願い主だね
特に変わった様子はないようだけど・・・
ちょっと妹さんに声かけてみようかな
それにしてもお兄さん・・・
なんで・・・謝ったんだろう・・・

しっかりしているから独りでも・・・か・・・
ねぇ、兄さん・・・
何で話してくれないの・・・
私、わかっているんだよ・・・
これから起こる戦いに兄さんが自らすすんで参加していること・・・
なんで兄さんは・・・そんな危険を冒してまで・・・
この土地を守ろうとしているのはわかっている
でも、帰ってこられなかったら・・・
守る意味・・・ないじゃない・・・

・・・戦争?
戦いが起こるっていうの?

駄目だめ、こんな弱気じゃ・・・
兄さんを心配させちゃう
それに帰ってこられないと決まったわけじゃないもの
でも、私が止めたら考えを変えてくれるかな・・・
・・・なに、言っているんだろう私
よし、買い物して帰りましょ

・・・家族なんだから、心配させてやんなさいよ
想いを伝えなきゃ何も伝わらないじゃない
いなくなってからじゃ・・・
伝えられないんだよ・・・


・・・戻ってきたか
お、この匂いはあの親父秘伝の油揚げじゃな!

・・・

待っておったぞ、あぶ・・・
ん?
ただでさえ、ちんくしゃな顔をしているのにさらに歪めおって

ねぇ、あのお兄さんの願いって何だったの・・・

あぁ、その話か
その様子じゃと、何かを聞いていたようじゃが・・・
おぬしに話したところで、何も出来まいて

・・・戦いが始まるって言ってた
お兄さんが願ったのが戦勝祈願ならそれでいい・・・
でも、そうじゃないんでしょ

・・・

お兄さんは「・・・すまない」って謝ってた

もしかして、戦地で死ぬつもりじゃ・・・

・・・大事なモノを守るための戦い
そうあの者は言っておった

・・・土地を守るために命を落とすってこと?
じゃあ、残された妹さんはどうなるのさ・・・

・・・

ねぇ、どうにかできないの、あんた神様なんでしょ?
相手の親分を倒して壊滅させるとか、
なんかこう・・・
お兄さんが無事に帰れるような・・・

おぬしはいつも簡単に言ってくれるのぅ
神の力であの者と戦う相手を滅せよというか?
・・・相手は人間じゃぞ?
・・・それをあの者が望んでいるというならばやれんこともない
じゃが、願いはそうではないんじゃよ・・・

「神様・・・」
「私はこれから起こる戦いにおいて命を落とすことでしょう」
「相手は大国に所属する猛者ばかりの国だと聞きます」
「そのような相手に、私は挑まねばなりません」
「私はこのような時代に生きていることを嘆きはいたしません」
「あなたのお決めになられた私の天命なのでしょう・・・」
「それに抗うことはいたしません」
「ですが、1つだけ・・・」
「私が気がかりなのは、妹の行く末です・・・」
「あの子は気丈に振る舞っていても心は弱いのです・・・」
「私がいなくなった後、もしかしたら妹は・・・」
「神様・・・」
「願わくば、妹がこれからの世界で」
「強く生きていけるよう手助けをしてあげて下さい・・・」

以前、おぬしに話したことがあったな
「願をかけた者の想いを叶えたところで本当の幸せにはならん」と・・・
おぬしは答えたな・・・
「願いが叶うなら、幸せな事だ」
・・・とな

!?・・・

今も同じ答えが言えるかや?
・・・じゃが、わしは神じゃ
願いを聞き入れる事が役目だとすれば
わしに出来ることはあの者を救うことではない
妹の行く末を手助けすることなんじゃよ

・・・それでも
それでも、ボクはあのお兄さんを救いたい
あんたが何も出来ないというなら
・・・ボクがなんとかする!

何するのさ!?

おぬしがわしを軽蔑しても一向に構わぬ
じゃが、おぬしが行ってどうなる・・・
あの者が戦地へ行くのを止めることが出来るのか?
残されるだろう妹を慰めることが出来るのか?

・・・!!
ボクには無理だ・・・知恵も力もない・・・
でもね
・・・独りは寂しいんだよ

・・・

ボクも子供の頃に家族を失ったから・・・
その辛さは今もはっきり覚えている・・・
大人になってみて感じるんだ
過去の想い・・・後悔したくない気持ちをね
だから、少しでも助けられるなら助けたいじゃない
ボクはね、全員が幸せになる世界が作れなくても
「あの時は幸せだったね」って
そういう想いを残してあげたいんだ

・・・
あのバカ娘が・・・
・・・秘伝の油揚げまで持っていきおった

くっくっく・・・
おまえさまもまたやっかいなことに巻き込まれておるのぅ〜

・・・その声、玉藻か?

ふふふっ

ぬしよ・・・殺生石となって各地で封じられておったのではないのか?

あのような封印ごときで、わっちを縛るなど・・・
片腹痛いというものでありんす
疲れた体をほんの数百年休ませているようなもの・・・
のぅ、静彗よ
困っておるなら、わっちが手を貸そうかや?
わっちなら〜、あの人間を助けることなど造作もありんせん

ふふっ、冗談をいうではない
ぬしは妖・・・
わしは神の使いじゃ・・・

もとは同じ九尾の狐ではありんせんかぁ〜
それに・・・わっちなら人間を殺めたところで・・・
罪の一つも感じはしないでありんす
人間の雄は助かる、その身内も喜ぶ、万事解決じゃ

全てお見通しということかの・・・
・・・何を企んでおる?

企み・・・?
およよ・・・
そんな風にわっちを怪しむなんて
竹馬の友を相手に、悲しんす・・・

見え透いた嘘を・・・

ふふっ
そんなものはありんせん♪
ただの
ひ・ま・つ・ぶ・し・♪


ぬしに情けなどをかけられたでもしたら、この静彗の名が廃る

・・・つれない奴じゃな〜

ぬしが本心から助けてあげたい・・・と申したのであれば
ありがたく受け入れたかもしれぬが・・・

そんなあられもないわっちの姿など〜
見せるわけなかろう

それこそ旧知の仲であるわしになら見せてもいいのではないかえ

・・・ふふふっ

封印が解ける時が来るまでゆっくり寝ておれ

つまらぬのぅ・・・
まぁ、人ごときの争いに首をつっこまずとも
おまえさまと楽しめるなら
わっちゃその日を楽しみにしていんす
ただ、馴染みとして1つ
面白い話をしようかの
これは隣国の話じゃが・・・
(背後で妖狐が暗躍していんす・・・)
あとはおまえさまが考えてくりゃれ♪

・・・玉藻の奴め
余計なことを言いよって
・・・さて、バカ娘が何かしでかす前にひと仕事してくるかのぅ


・・・このあたりから妖気を感じるんじゃが

おやおや、ヒトではないモノの気配がすると思ったら・・・
土地神の類いですか?

・・・面倒だから、土地神で構わぬ
さて・・・
おぬしがこの戦の首謀者かのぅ

首謀者とは言いがかりですね
ただ私は、つまらない世の中を私なりに楽しくしたいんですよ

今の世も慎ましく過ごせば楽しいと思うがの
考え方次第のようなものじゃな・・・

ヒトは欲深い生き物ですからね〜
私は隣の芝生が青く見えるように領主の意識を植え付けただけ・・・
ヒトは手元にない素晴らしいと思うモノや新しいモノを得た時
世の中が楽しくなる、心が満たされる・・・

思い込んでいるんですよ

ふむ・・・、たしかにのぅ

それにヒトは樹々を伐り、野を焼き払い、住む土地を増やしておる
土地神のあなたならそれくらい気が付いているでしょ?

・・・6年前の7月に、似たような事を話す奴がおったのぅ
動物たちを代表して人間に罰を与えるとかなんとか・・・

人間に罰・・・
違いますね
私はヒトがどうなろうと関係ないのですよ
私さえ楽しければ、それで・・・

寂しい・・・寂しいのぅ
・・・人間に取り入って、幸せになろうとは
まるで昔の玉藻のようじゃな

そういっていただけると嬉しいですね
あの九尾の玉藻様は、我々の尊敬する目標ですから

なんじゃ、おぬし、玉藻のような九尾になりたいのか?
ならば、ほれっ

なんですか、その石・・・

ん、ここに来る途中につまづいた憎き石じゃよ

あとで粉砕してやろうかと思って持っていたんじゃが好都合・・・
この石におぬしを封印して、「殺"笑"石」として奉ってやろう
これで玉藻と結果的には同じ存在になるぞ?

ふざけた土地神ですね・・・
土地を守るのが責務であるならば手を出さずに
行く末を見ていることをお勧めします
それに・・・
その土地神程度の力では、私には敵わないでしょう
神と互角の力を持つ、あの九尾に最も近い私にはね・・・
力量というモノをわきまえているならばここを去りなさい

力量のぅ・・・
ならば、ぬしにも一つ忠告しておこう
力量というモノがわからないのであれば

さっさとわしの前から居なくなるがよい
そして、ぬしの仕える領主とやらを戒めてやることじゃな

その耳・・・
あなたも妖狐でしたか・・・
つまり、あなたの縄張りへ攻め入ることになったということですか

まぁ、そんなところじゃ

それは申し訳ないことをしました・・・
が、しかし・・・
戦いはすでに始まってしまいました
流れ出た水全てを止められないように
今の時代の流れはもう止まらない・・・
私の願いの邪魔をするのであれば、同じ妖狐でも容赦はいたしません

それは残念じゃ・・・
では、わしも少しばかり抵抗させてもらおうかのぅ
おっと・・・
そういえば、自己紹介がまだじゃったな

私はウカノミタマが眷属姫の1人、静彗と申す
・・・いざ参ります!




「九尾に最も近い」などと言いながらこの程度の炎・・・

・・・焚き火にすら程遠いですね

逃げ回るばかりの癖に減らず口を・・・
ならば、これならどうですかっ!!!

いかがですか!私の炎のお味は!

・・・まずまずといったところでしょうか
狂言かと思いきや、九尾に近いというのは事実のようですね
その妖力に免じてあなたにも経験してもらいますか・・・

本当の狐火っていうのはね・・・
こういうのを言うんですよっ!


がはっ
・・・なんだ、この熱量は
私の炎なんてくらべものにもならぬ・・・

当然です・・・
私は神に仕える眷属の狐・・・
尾の数を気にする野良狐とは格が違いますからね

尾の数・・・
そうか・・・あなたは"天狐"だったか・・・
ふふふ・・・勝てないわけです・・・

これで終いじゃ・・・
ゆっくり休むがよい


「私が望んだ世界・・・、私が幸せな世界・・・」
「私が寂しくない世の中が待っているというのに・・・」
「その世界に私がいないなんて・・・」
「ふふふっ、寂しい・・・ものですね・・・」

・・・
安心せい・・・ぬしの石はわしの社にでも放置してやるわい
せめてもの情けじゃ
・・・それにぬしは一つだけ間違っておる
わしは"天狐"じゃなくて"空狐"じゃ・・・

ぬしが感じてた寂しさなど、わしにからみればまだまだじゃよ
・・・数千年もの間、わしも独りじゃったからな

首謀者である狐がいなくなったとはいえ、
人間たちの争いは止まることなく
自分の住む場所を・・・
延いては妹を守るために戦場へ向かった兄は
時代の流れという力に抗えず・・・
数日後、妹と悲しき再会を果たしたのじゃ・・・
そして、埋葬を終えた数日後のこと・・・


兄さん・・・
もう姿を見ることもできなくなってしまいましたね
お空から見てますか・・・見てくれてますよね・・・
私・・・これから独りなんですよ
独りで・・・生きて・・・
兄さんがいないとダメです!
兄さんがいて・・・甘えることが出来るから、しっかり出来たのに・・・
いなくちゃ・・・駄目なんです
だから、近くに行ってもいいですよね・・・

・・・ポリアンナ

兄さん・・・?
あぁ、迎えに来てくれたのですか?

・・・何馬鹿なことを言っているんだい
・・・お前がいなくなったら、庭の畑や
・・・俺が丹精込めて育てた野菜たちはどうなる?

だって、兄さん・・・
私にはもう耐えられない・・・
独りで生きて行きたくないのです

・・・大丈夫だよ
・・・俺はもうココにはいないけど
・・・高いところから、いつもお前を見ているから


兄さん・・・
そんな慰めはいらないです・・・
空を見上げても兄さんは土の中じゃないですか

・・・そんなことはないさ
・・・畑へ行ってごらん

・・・はたけ?

・・・さぁ、急いで
・・・

独りは嫌か・・・
良くも悪くも人間らしい考えじゃ・・・


兄さん・・・はたけに何が・・・

何・・・この花・・・
いつの間に・・・でも、こんな・・・

白狐 ・・・ほほぅ
これは見事なコウテイダリアじゃのぅ


コウテイ・・・ダリア・・・?

なんじゃ、おぬし・・・知らんのか?
成長すると人よりも高く伸び、大きな花を咲かす植物じゃよ

昨日まではなかったんです・・・
それなのになんで急に・・・

・・・
しかし、立派に成長したのぅ
花がまるでおぬしを見守っているようじゃな・・・

高いところから・・・見守る・・・?

大事にすることじゃ
この花を植えた者の想いを枯らせないためにもな

・・・兄さんが言ってたのはこういうことだったのですね
・・・兄ぃ・・・さん・・・
うぅ・・・

粋なマネするじゃない!
「おぬしを見守っているようじゃなっ!」
な〜んて、お兄さんの気持ちを花に例えてあの子を励ますなんてさ!

・・・あのコウテイダリアのことか?
あれはあの娘の兄が亡くなる前に植えたようじゃ
いわば、妹を見守るために・・・いや
生きる希望を残すための最後の贈り物なのじゃろう

亡くなる前にって・・・ええっ!?
見上げるくらい高いよ、あの花・・・
こんなに早く育つ花なんだね・・・

・・・そんなわけがあるか、バカ娘

馬鹿とか言うなっ!

・・・植物の成長を早めることなど造作もない
わしを誰だと思っておる・・・

・・・野良狐

そのわりには納得してないような表情しているね

・・・う、うるさいっ
それよりもわしは腹が減った!
ぬしは親父秘伝の油揚げを買ってこい!
前買ってきたのはぬしが独りで食べてしまったようじゃからなっ!

あれはたしかに美味しかった!
うん、買って帰るよ!

・・・妹が強く生きていけるよう手助けをしてあげて下さいか
玉藻の助言がなければ、わしは・・・
この願いを叶えてやれなかったのかもしれぬ・・・

「あの雄は生前には」
「畑にある植物を植えたようじゃ」
「今はまだ土の中で、芽吹くのを待っておるが・・・」
「その丈は天を目指し・・・
「見上げるほどに成長すること、雄のごとく」
「その花は地を見渡し・・・
「安らぎの場所を見守ること、雌のごとし」
「・・・ふふふっ、わっちが言っていることがわかるかや?」
「おまえさまの神通力ならば〜」
「成長させることなど簡単じゃろう?」
「そのあとはわっちに任せてくりゃれ♪」

玉藻の奴、小粋なマネを考えおって・・・
孤独を最も嫌う玉藻らしい考えじゃな・・・
結局、あやつに一つ貸しを作ってしまったのぅ
・・・妹はもう独りで生きていけるじゃろう
あの兄が宿る花が見守り続けるかぎりのぅ
・・・そろそろ油揚げを買い終えた頃か
そういえば・・・
よるひめの奴がこの件で何をしでかしてきたのか
聞きながらいなり寿司を食べるとするかのぅ
楽しみじゃなぁ〜♪

これでわしの世間話はお終いじゃ
ん?
今さらながら、なんでこんな話をしたのかじゃと?
・・・わしが暇だからじゃ
暇が続けば「孤独」を生み、孤独は「心」を腐敗させる・・・
心の腐敗は死へと続くものじゃ・・・
じゃがの・・・
ただ腐らせて死んでいくか、それとも、うま味として活力にするか・・・
それは己しだいじゃ・・・
わしは「孤独」であったが、人間を見ているのが面白かったからのぅ


そして、今はあいつがそばにおる・・・
退屈しない日々が約束されたようなものじゃ
あいつが油揚げを買って戻ってきたようじゃ
付き合ってもらって悪かったのぅ
またわしが暇になった時・・・
油揚げ持ってきて話を聞いておくれ

(終幕)